最近、TVや健康誌などで「オーラルフレイル」という言葉をよく耳にしたり見かけたりするようになりました。
「オーラルフレイル」といっても、ピンとこない人も多くいらっしゃると思います。「Oral(オーラル)」とは、英語で「口腔の」、「Flail(フレイル)」とは、「虚弱」を意味します。この2つの単語を組み合わせたOral Flail(オーラルフレイル)とは、『お口を介した体の衰え』といったことを総称して表現しています。年齢を重ねていくにしたがって、肌の色艶が変化したり、足腰の筋力が低下したりといった、加齢による変化はごく当たりまえの事だと思われていますが、「口腔の衰え」が体全体の衰えに繋がっていく事は、まだあまり認識されていません。最近では、口腔周囲の衰えが体全体、さらには精神的な部分や、社会的な面においても、健康と大きな関わりがある事が明らかになっています。特に高齢者の方の衰えについては、介護が必要にならないようにと、ウォーキングなど体全体を動かして鍛えたり、筋力の維持を図ったりすることが注目されがちですが、実は心身共に健康であるためには、「お口の健康」を維持することこそが、全身の健康維持にとって最も重要な役割を果たしている事が明らかになっています。本年の厚生労働省が行った保険の改正においても、医科・歯科の連携が強化され、さらに口腔機能訓練などが評価されるようになりました。お口が担う大切な役割は、食べ物を噛んで飲み込む消化吸収作業の第一の入り口として、また、会話や笑顔を演出するコミュニケーションの窓口などの機能が真っ先に思い浮かべられます。これらが充分に果たせないと栄養吸収に支障をきたし、周囲の人とのコミュニケーションがうまく行えないなどといった大きな問題が生じてしまいます。例えば友人と楽しい食事会へ行ったとしましょう。歯が悪ければ、皆さんと同じ物を食べても、その食感や味の感動を共有できないなど、社会的な交わりから遠ざかってしまいがちになります。「オーラルフレイル」は、お口の中の食べ物を飲み込む嚥下機能や、舌や唇を動かす力やスピードが遅くなり、『うまく噛めない、咀嚼ができない』といった現象から始まります。うまく噛む事ができない、噛むと痛みがあるなどといった事になれば、食べられない食品が増えるため、食事が楽しくなくなり食欲が減少してしまいます。さらに口を動かす機能の低下は、発音や会話がスムーズに出来なくなってしまうため、人と会っておしゃべりをしたり、外出したりする事が次第に億劫になってしまいます。家でじっとしていては、運動量の低下にも繋がり、体の様々な機能も衰えてしまうため、日常の生活活動も困難になります。この様に、社会との関わりが薄れると、行動意欲の低下にも繋がって、活発さも失われてしまうでしょう。
口腔機能の低下により、鬱っぽくなり家に閉じこもりがちになるなど、食べる、話すといった「口を動かす」事は、精神的な部分にも大きなかかわりを持ってきます。高齢になると、歯磨きや口腔内のケアなどチェックがうまくいかず、結果として口腔内が不潔になり、虫歯や歯周病が増加してしまいます。これらの疾患で歯を失えば、噛む力がさらに低下し、食べこぼしや噛みきれない物が増えて、体内に栄養を取り込む事すら出来なくなってしまいます。残存している歯の本数と、噛む力や咀嚼力には密接な関係があり、残存歯数が20本未満になると、咬合力はガクンと低下します。つまり、歯が少なくなれば「オーラルフレイル」に陥りやすくなるのです。加齢による体の衰えは致し方ありませんが、「オーラルフレイル」は食い止めることも可能だといわれています。もしも虫歯や歯周病に罹患していたら、きちんとした口腔管理・治療を行う事で健康な状態へ戻していく事ができるからです。口腔内の状態を整備し、話す、食べるなどといった日常の行為をとおして、口をしっかり動かして使うことが大切です。話す、食べるといった何気ない行為の中で、それらを確実に意識しながら行うことこそが、歯や口の健康に繋がると認識する事が初めの一歩となります。
よく噛む食事法は唾液の分泌を促し、口内フローラを整え、消化・吸収の手助けにもなります。正しい歯磨きや義歯の手入れなど、普段から意識してしっかりとお口の中のケアを実践する事に加えて、定期的な歯科検診を受けて、客観的なチェックや改善策を達成してゆく。虫歯や歯周病、歯の噛み合わせの不具合、口腔が乾燥してしまうドライマウスなどの不具合があれば、歯科医師に相談して適切な治療を受ける。といった改善策を早めにとっていただくことが重要となります。これらを日々実践しながら、外出の機会を増やし、社会的な活動を心がけ、口腔の良好な状態を維持しながら、快適に過ごしていくことにより、ますます健康で活き活きとした毎日を送っていただく事ができるでしょう。